3Dオブジェクトやバーチャルサンプルの存在感を、さらにリアルにするために重要なマテリアルのデータ。ベースカラーマップ、アルファマップ、ラフネスマップなど、テクスチャマップは種類が多岐に渡ることや、使い方の勉強が必要なことから、なかなか手を出しにくいという印象かもしれません。こういった3Dのマテリアルに関する情報をひとまとめにしたデータ形式「U3M」をご存知ですか? 今回は、バーチャルサンプルの作成で活躍するU3Mについて紹介します。今後、デジタルファッションや、よりリアルで説得力のある商品画像・プレゼン資料を作成するためにマストとなる知識ですので、ぜひ最後までご覧ください!
U3M - Unified 3D Material(https://www.u3m.info/)より
目次
U3M(Unified 3D Material)は、Browzwear社とVizoo社が共同開発した3Dマテリアルデータのフォーマットです。マテリアルとは、3Dオブジェクトの外観や質感を制御する重要な要素であり、よりリアルな結果を得るために細かく設定する必要があります。U3M形式のファイルには光学特性*¹と物理特性*²の2つの情報が含まれており、これを活用することでマテリアルの設定が容易におこなえます。
3DソフトウェアでU3M形式のファイルを読み込むと、3D空間で使用している生地の凹凸感や光沢感、柔らかさといったマテリアル情報が設定され、現物生地と同じ風合いが表現できるようになります。リアルなバーチャルサンプルを作成する上で欠かせない存在と言えるでしょう。
*1: 物体が光をどのように反射・屈折・吸収するかという性質
*2: 厚さ、伸縮性、曲げなど、物体がもつ物理的な性質
光学特性と物理特性のデータは通常、それぞれ別のファイルとして生成されます。3Dバーチャルサンプルの作成において、1種類のマテリアルを使用する場合も、2つの異なるファイルを扱う必要があります。この時、各ファイルが正しく管理されていなければ、光学特性ファイルと物理特性ファイルを誤った組み合わせで3Dバーチャルサンプリングを進めてしまうというヒューマンエラーが起こりかねません。すると、出来上がったサンプルイメージが現物とはかけ離れた不正確なものとなってしまいます。
一方、光学特性と物理特性の情報を持つU3M形式のファイルでは、前述のようなエラーを回避することができます。また、バーチャルサンプリングを進めていくうえで、3Dマテリアルデータはサプライヤー/ベンダーとデザイナーの間で共有されることが多々あります。その際、U3M形式であれば扱いやすく、そのプロセスを効率化することができます。
補足:U3Mは、u3mファイル、jsonファイル(物理特性データ)、texturesフォルダ(光学特性データ)の3つを、1つのフォルダの中に格納した形で構成されています。3DソフトウェアでU3Mファイルを読み込むと、リンクしている各ファイルが参照されるという仕組みです。
※U3Mを出力するソフトウェアによっては、U3Mファイル以外のファイル構造が異なる場合があります。
U3Mはオープンフォーマットです。そのため、開発者であるBrowzwear社のVsticherやLottaだけでなく、OptitexやAPEXFiz®(島精機製作所)、z-weave(z-emotion)などさまざまな3Dソフトウェアで対応されています。従来は各ソフトウェアにおいて独自のファイル形式のマテリアルデータが使用されていましたが、U3Mによって特定のソフトウェアに縛られずにデータを利用することができるようになりました。
U3M - Unified 3D Material(https://www.u3m.info/)より
では、U3Mはどのようにして作成されるのでしょうか? 大きく分けて、現物生地から作成する方法と、バーチャルで作成する方法の2種類が挙げられます。
まず一般的な方法として、Vizoo社のスキャナー xTexを利用します。現物生地をスキャンすることで光学特性データを作成し、そこにBrowzwear社のファブリックアナライザーで物理特性を測定して、その情報を付加します。U3Mフォーマットの開発者であるVizoo社とBrowzwear社の機器を使用した方法です。
Vizoo — Polytropon(https://www.polytropon.com/en/vizoo/texture-capturing-processing)より
Fabric Analyzer - Compre agora na Software.com.br(https://software.com.br/p/fabric-analyzer)より
Vizoo社とはまた別の会社が開発したNunoXというファブリックスキャナーでは、現物生地をスキャンして光学特性データを取得後、AIによってその生地の物理特性を生成し、U3Mファイルを作成することができます。ファブリックアナライザーのような装置を使った方法では、作業者が手作業で物理特性を測る必要があり、手間がかかってしまいますが、AIを使うことによって効率的にファイルの作成がおこなえるようになります。
Fabric Material Scanner for 3D Fabric Digitization | TG3D
(https://www.tg3ds.com/3d-digital-fabric-scanner)より
さらに、SEDDI社が開発するTexturaと、Frontier.cool社が開発するTextileCloudでは、オフィス用の一般的なスキャナーで現物生地をスキャンし、AI技術によって光学特性と物理特性の両方を生成し、U3Mファイルとして書き出すことができます。特殊な装置を購入する必要がないため、初期費用のかからない新たなメソッドです。
AI Fabric Digitization - Frontier.cool(https://frontier.cool/ai-fabric-digitization-frontier.cool)より
ここまで紹介してきた、スキャナーを活用してU3Mファイルを作成する方法は、現物生地が手元にあることを前提としています。このため、生地の状態によっては正確にデータを取得することが難しかったり、そもそも現物生地が簡単に入手できないケースもあります。一方、島精機製作所が開発するソフトウェア APEXFiz®を使うと、パソコンの画面上で生地をイチから作成して、それに対するU3Mファイルを生成することができます。
注:APEXFiz®で作成されるU3Mファイルには光学特性のみが含まれているため、物理特性についてはSEDDI社のTexturaやFrontier.cool社のTextileCloudを使用してAI技術によって情報を付加することをおすすめします。
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現物生地をスキャンするメソッドでは、新しいデザインの生地のマテリアルデータを作成しようとすると、まずその生地をオーダーし、工場で製織する作業が必要となり、2~3週間のリードタイムがかかってしまいます。また、マテリアルデータを使った3Dバーチャルサンプルの本来の目的は現物サンプルを極限まで減らすことにありますが、このようにスキャンするための生地を製織することによって資源の無駄が発生してしまいます。
これに対し、APEXFiz®を使ったメソッドは、100%バーチャルな方法であるため、リードタイムと環境への負荷を排除したまったく新しいサステナブルなソリューションであると言えます。
APEXFiz®を使ったバーチャル生地の作成について詳細は下記の記事でご覧いただけます。
生地シミュレーションで企画業務のDXを加速しよう!―織物・丸編み・タオル・刺繍シミュレーションを一挙大公開―
デザインソフトSDS®-ONE APEXシリーズを活用して織物・丸編み・タオル・刺繍の生地を設計する方法やシミュレーションについて説明します。
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前述の通り、U3Mは3Dモデリングに関連するテクスチャや形状データの管理が容易で、クラウドにデータをアップロードすることにより、サプライヤーやデザイナーの間で簡単に共有することができます。
クラウドでの共有はOne DriveやGoogle Driveなどの汎用的なサービスを利用するほか、swatchbookなどのデジタル生地専用のプラットフォームを利用する方法もあります。専用プラットフォームはデジタル生地の共有に特化しているため、3Dプレビュー機能やマテリアル情報表示機能などによって、よりスマートに快適にファイルをやり取りできます。また、既存の取引先とのデータ共有以外にも、マーケットプレイスにて生地データが検索できるサービスが提供されているため、新しい取引先との出会いも期待できます。
U3M形式に対応しているデジタル生地のプラットフォームはswatchbookのほかに、DMIxなどがあります。また、前章で紹介したTexturaやTextileCloudもU3M形式に対応したプラットフォームを提供しています。
いかがでしたか? U3Mは3Dバーチャルサンプリングに必要不可欠であり、このファイルを生成する方法や読み込みに対応する3Dソフトウェア、ファイルをシェアする専用プラットフォームは今後も増えていくことが予想されます。ファイルやそれを取り巻く環境について理解を深めておくことで、バーチャルサンプリングを効率的、かつハイクオリティに仕上げることができそうですね。