サーキュラーファッションは、持続可能な未来を築くための重要な概念として、ファッション業界で注目を集めています。従来のリニアエコノミー※による資源の大量消費や廃棄物の大量排出を減らし、再利用やリサイクルを促進することで環境への負荷を軽減することができ、ビジネス面でも企業の競争力やブランド価値の向上につながるとされています。今回は、サーキュラーファッションがもたらすポジティブな変革とその実現のために企業が取り組むべきステップについて詳しくご紹介します。
※リニアエコノミー:直線型経済と呼ばれ、資源(原材料)から製品を作り、使用後は廃棄するという一方通行型の経済活動を表します。
目次
サーキュラーファッションとは、従来の「作って、使って、捨てる」という直線的な消費モデルを脱却し、衣服のライフサイクル全体を循環させることを目指すファッションの新しいアプローチです。2015年にヨーロッパから広まった新しい概念である「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」は、製品の生産から消費まですべての段階において廃棄物を出さず、リサイクルやリユースによって原材料や製品を使い続けることにより、資源の枯渇や環境問題を低減し、自然を再生させることを目的としています。サーキュラーファッションもこのサーキュラーエコノミーの考え方に基づいた概念です。
サーキュラーエコノミーでは、従来の「使い捨て」ではなく、持続可能な資源の利用を促進しているため、製品が使用されなくなった後もその素材や部品が次の製品に生まれ変わることが求められます。
ファッション産業においては、耐久性のある素材の使用、製品のリサイクルを考慮したデザイン、使用済みの衣類などの回収・再利用が具体的な手法です。
「リデュース(ごみを減らす)」、「リユース(再利用する)」、「リサイクル(資源に戻して新たな製品を作る)」の 3R の考え方では、廃棄物を減らすこと、再利用することを目的とし、廃棄物が出ることが前提とされていますが、サーキュラーファッションでは廃棄物を出さないように製品を作る点が 3R と大きく異なっています。
環境問題や労働環境、人権などの社会問題をはじめ、さまざまな課題を抱えるファッション産業。どのような問題があるのかを理解すれば、なぜ今、サーキュラーファッションに注目が集まっているのかを紐解くことができるでしょう。
ファッション産業は「大量生産・大量消費・大量廃棄」が従来のモデルであり、地球環境に与える悪影響が非常に大きく、石油産業に次ぐ世界第2位の環境汚染産業と位置付けられています。
環境省「SUSTAINABLE FASHION これからのファッションを持続可能に」より引用
これらの環境負荷を軽減させるべく持続可能な取り組みが必要とされているのです。
地球環境や自然環境を守り、これからも継続的に発展していける社会の実現を目指すために、ファッション業界でおこなわれているサステナブルな取り組みについて詳しく解説したこちらの記事もぜひご覧ください。
サステナブルファッションとは? 業界の問題から企業の取り組み、個人ができることまで全部紹介
ファッション・アパレル業界における「サステナブルファッション」の取り組みについてご紹介します。地球環境や自然環境を守り、これからも継続的に発展していける社会の実現を目指すために、今、私たち全員に必要な活動です。
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近年、消費者の間でもエシカル消費※に対する関心が高まっており、自分自身が着る服がどのようにして作られたのかを知りたい消費者が増えています。
消費者が企業・ブランドに求める要素として「トレーサビリティの確保」があり、衣服の製造過程における透明性が重要視され、使用されている素材の産地や詳細な生産背景を公開するプロジェクトも実施されています。
※エシカル消費:社会課題の解決を考慮したり、そのような課題に取り組む企業を支持する消費活動を表します。
また、消費者のニーズや意識も変化してきており、環境に配慮した商品・ブランドを求める傾向や、製品を長く使うために「所有から利用(サブスクリプション、シェアリングなどのサービス)」という考え方が広まっています。衣服、家電などライフスタイル関連のシェアリングサービスの市場規模は、2020年度で約1兆円、2030年には1.8兆円程度まで拡大が見込まれており、年平均成長率(CAGR)は10.8%になっています。サブスクリプションサービスも2019年度で6,835億円、2024年には約1.8倍の1兆2,117億円になると予測されています。
参考:経済産業省委託事業「ファッションの未来に関する報告書」(2022年3月)
世界のファッション業界では、年間1,000億~1,500億点以上の商品が生産され、そのうち約800億点が毎年購入されています。現状の「大量生産、大量消費」がこのまま続けば、世界の人口増加も要因として、2050年には世界の年間衣料品総生産量が1億6,000万トンに達するとの予想もあります。
それに伴い、ファッション産業において、水、石油、化学物質などの資源の消費も大幅に増加し、環境への影響も増加すると懸念されています。サーキュラーファッションの実現により、資源の循環利用や再生を促進することで、限りある資源の有効活用や廃棄物の削減に貢献し、環境への負荷を軽減することができるのです。
参考:「FASHION STATISTICS 2022/3」、「廃棄物資源循環学会誌」(2023年4月)
企業は、サーキュラーファッションに基づいて持続可能なビジネスモデルを導入することで社会的責任を果たし、ブランド価値を高めることができます。環境保護に貢献するだけではなく、生産者の労働環境を改善したり、サプライチェーンの透明性を確保し、製品がどのように作られたのかを明示したりすることで消費者からの信頼を得ることもでき、企業として長期的な成功への鍵となり得ます。
また、サステナビリティ(持続可能性)に関する法規制やガイドラインが多くの国や地域で導入されており、これらの規制は企業に対して環境負荷を軽減するためのプレッシャーとなって、持続可能なビジネスモデルへの転換を促進しています。以下に、各国の代表的な法規制、ガイドラインについて紹介していきます。
2020年5月に発表された「循環経済ビジョン2020」は、循環型経済の実現に向けたビジョンです。企業がおこなうべき取り組みとともに、「循環経済システムの構成員」としての消費者の行動指針が掲げられています。
参考:経済産業省「循環経済ビジョン2020」
「新循環経済行動計画(New Circular Economy Action Plan)」が2020年3月に発表されました。2015年に公表された「循環型経済行動計画」では54の具体的な行動が策定され、すべて実施済み、または実施中となっており、新計画はサーキュラーエコノミーをさらに推進するものになっています。
「欧州グリーンディール」は、2050年までにカーボンニュートラル※の実現を目指す各種成長戦略です。「2050年までの温室効果ガス排出を実質ゼロにする(気候中立)」、「経済成長と資源利用のデカップリング(切り離し)」、「気候中立への移行において、どの地域も取り残さないこと」の3つを主要目標としています。関連して、2022年3月に「欧州繊維戦略(EU Strategy for Textiles)」が発表され、繊維製品に対して、「耐久性が高く、リサイクル可能」、「大半に再生繊維を使用」、「有害物質を含まない」、「生産者の労働環境、人権などに配慮して製造されている」、「過剰生産の廃止」、「製品の廃棄抑制」などを提言しています。
※カーボンニュートラル:CO2などの温室効果ガスの排出量から植林などによる吸収量を差し引いた合計をゼロにすることを表します。地球温暖化への対策として重要な取り組みです。
参考:日本貿易振興機構「欧州委、新たな循環型経済行動計画を発表」、「欧州委、2050年までに気候中立を目指す新たな政策を公表」
ファッションの持続可能性と社会的説明責任に関する法律(Fashion Sustainability and Social Accountablity ACT)では、ニューヨーク州でビジネスをおこなっている、年間売り上げが1億ドル以上のアパレル企業などに対して、原料調達を含むサプライチェーンの半分以上の開示、温室効果ガスの排出量や化学物質の管理など社会的、環境的に影響が大きい情報の開示などを義務付けています。2022年1月に法案が提出され、現在も審議が続いていますが、成立すれば、ファッション産業での持続可能性や企業の社会的責任を問う、アメリカで制定された初の法律となります。
参考:「NY州はファッション業界の“サステナ先進国”になれるか?」
グローバル市場では、サーキュラーファッションの規模は2023年に約60億9,000万米ドルとされ、2030年には110億米ドルに達すると予測されています。これは、予測期間中の年平均成長率(CAGR)が8.8%であることを示しています。さらに、世界のサステナブルファッション全体の市場規模は2023年に77億米ドルに達し、2031年には397億米ドルに成長すると予測されています。これもサーキュラーファッションの一部として考えることができるでしょう。
サーキュラーファッションは、持続可能な未来を築くための重要な要素として、今後も成長が期待されています。特に、消費者意識の高まりや企業の取り組みが進むことで、市場規模が急速に拡大することが予想されます。
参考:「サーキュラーファッションの世界市場」(2023年10月)、「サステナブルファッションの世界市場」(2024年4月)
サーキュラーファッションに取り組む企業の事例を紹介します。持続可能なビジネスモデルを導入し、環境負荷を軽減するためのさまざまな取り組みを展開しています。
「RE:UNIQLO(リ・ユニクロ)」というプロジェクトを通じて、衣服が次に活躍できる場を創り出すことで、循環型社会に貢献するための取り組みをおこなっています。回収した衣類を支援衣料としてリユースするほか、不要になった服の素材から新しい服を作るリサイクルにも取り組んでいます。
廃棄ゼロのニット製品を提供するECモール、「BLUEKNIT(ブルーニット)」を運営しています。地球環境に配慮し、心身に優しく、生産者を支え、エシカル社会を考えるという4つの観点をもとに、資源を循環させることに向き合っています。ホールガーメント®技術を活用し、生産工程で発生する廃棄素材を極力少なくするとともに、製品の廃棄ロス削減に向けた取り組みとして、BLUEKNITの商品を買い戻し、リペアした後にリユース販売したり、素材に応じて最適なリサイクル方法で再資源化をおこなったりしています。
着なくなった衣服を回収して、独自の技術により原料の状態にリサイクルし、何度でも服に再生、循環させるサーキュラーエコノミーを実装しているブランドです。現在、繊維の生産量の約6割を占める重要な素材であるポリエステルは一度しかリサイクルできなかったのですが、BRING Technology は何度でもリサイクルすることを可能にしました。
ジャパンクオリティのニット製品を製造しているアミアズは、地球環境問題に取り組む資源循環プロジェクト「Withal(ウィゾール)」で、回収した衣類を循環させる繊維のサーキュラーエコノミーを実現しています。通常、複合素材は再生が難しいため、リサイクルとして回収できる衣服は綿100%、ポリエステル100%など素材が限られていましたが、Withalは「回収した繊維を余すことなく再生できる」仕組みになっています。
2023年、循環性を評価する「サーキュラー・ファッション・インデックス(Circular Fashion Index)」において、3年連続トップ企業にランクインしました。
参考:WWDジャパン「「パタゴニア」「リーバイス」「ザ・ノース・フェイス」が3年連続で循環型インデックスのトップに」
Worn Wear プログラムでは、モノを長く使い続けて全体的な消費量を減らすことを、私たちが地球のためにできる最善のことと捉えています。服を良好な状態に保ち、長く着続けられるためのお手入れやリペアのテクニックを紹介したり、不要になったパタゴニア製品の買い取りをおこなっています。
企業がサーキュラーファッションを導入するためには、具体的な戦略が必要になります。
サプライチェーン全体を見直し、持続可能な素材の使用とエシカルな生産方法を導入することが重要です。例えば、以下の方法があります。
生分解性がある素材や再生可能な素材などエコフレンドリーな素材については、こちらの記事をご覧ください。
エコフレンドリーな素材とは?モノづくりをおこなう上で企業が取り組むべき地球環境にやさしい選択
刻々と変化し、悪化の一途をたどっている地球環境を守るために、エコフレンドリーな取り組みから素材まで、ファッション・アパレル業界においてモノづくりをおこなう上で企業ができる選択、そして消費者として個人ができる取り組みをご紹介します。
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使用済みの衣服の回収とリサイクルプログラムを導入することで、製品のライフサイクルを延ばし、廃棄物を削減することができます。以下の方法が有効です。
製品のデザイン段階から持続可能性を考慮して環境への負荷を最小限に抑え、長寿命で修理可能なデザインを採用することが重要です。これにより、製品の寿命を延ばし、廃棄物の発生を抑えることができます。
消費者に対してサーキュラーファッションの重要性を伝え、リサイクルやエシカルな消費の意識を高めることが必要です。これにより、消費者の購買行動を持続可能な選択へと導くことができます。
いかがでしたか?ご覧いただいたように、サーキュラーファッションは地球環境に優しい持続可能なファッションに対する取り組みとして注目されています。国内外の有名ブランドや企業もすでに、持続可能な素材の使用や、不要な衣類の回収・再利用プログラムなど具体的な取り組みを積極的におこなっていますが、さらにサーキュラーファッションを成功へと導くためには、衣類の生産から再利用までのサプライチェーン全体のビジネスモデルを見直し、循環型社会へと進化させることが必要です。消費者の意識向上を含めて企業がより積極的に取り組み、ファッション産業全体を変革していくことがますます重要になっています。