今回は「レンダリング」について、皆さんと一緒に深掘りしていきたいと思います。3DCGを扱う中でよく耳にするレンダリングという言葉、その仕組みや意味をしっかり理解していますか?なんとなく使っている方も多いかもしれません。この記事では、ファッション業界におけるレンダリングの重要性について、基礎的な内容から一歩踏み込んだ専門的なポイントまで分かりやすく解説します。すでに3DCGを始めている方も、これから挑戦したい方も、ぜひ参考にしてください!
目次
レンダリング(rendering)とは、コンピュータが数値データを処理して画像や音声、映像などを生成するプロセスです。特に3DCGでは、光源や色、影や質感を計算して、作成した3Dモデルをフォトリアルな画像や高品質な動画へと仕上げて出力することを指します。レンダリングは映画やゲーム、アニメーション制作などで広く使用されており、高品質なビジュアルを作成するためには多くの計算リソースが必要です。
レンダリングにはレイトレーシング、ラジオシティ、Zバッファ法、スキャンラインなど、さまざまな種類がありますが、その中でもファッション業界において主流となっているのが、レイトレーシングです。
レイトレーシング(Ray Tracing)は、その名の通り光線を追跡する技術です。光源から発せられる光の量や角度、屈折や反射などをコンピュータでシミュレーションし、現実世界に近い画像や映像を生み出します。影の表現にも優れており、オブジェクトによって遮られた部分が自然に暗くなることで立体感を持たせます。鏡面反射や透明な素材の屈折も正確に計算され、複雑なマテリアルの表現が可能です。この手法はテクスチャマップと組み合わせることで物体の質感がさらにリアルになります。
テクスチャマップついては、こちらの記事をご覧ください。
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中でもファッション業界で有名な「V-Ray(ブイレイ)」は、ブルガリアのChaos Group Ltd.が開発したレイトレーシングのエンジンです。多くの3DCGソフトウェアでプラグインとして使用でき、高品質なレンダリングが可能です。V-Rayが対応しているソフトウェアには、3ds Max、Maya、CLO、Browzwear、Style3D、APEXFiz®などがあり、ファッション業界の3DCGにおける代表的なソフトウェアで使用できるようになっていることが分かります。
Chaos公式サイト(https://www.chaos.com/vray/application-sdk/fashion-design)より
近年はこのV-Rayのほかに、Unreal Engineもファッション業界の3DCGにおいて注目を集めています。Unreal Engineは米国のEpic Gamesが開発したもので、元々はゲーム用のレンダリングエンジンとして有名でしたが、CLO、Browzwear、Style3Dなどでも対応が開始されています。Unreal Engineは高速でレンダリング処理が可能なことが特徴で、V-Rayでは処理待ちの時間が発生するのに対して、高品位なイメージをリアルタイムで確認することができます。
Unreal Engine公式サイト(https://www.unrealengine.com/ja/)より
3Dループ変換によるレンダリングは、他のソフトウェアにはない独自の手法です。この方法では、コンピュータ上の3D空間でニットの1目1目のループ(編み目)を物理的に計算しながらCG画像を生成します。一般的な3DCGソフトでは、衣服を再現する際に型紙にテクスチャ(ファブリック)をマッピングしてからレンダリング処理をおこない、目の錯覚を利用してリアルさを高めます。しかし、凹凸や毛羽が多いニットの場合、この方法では限界があり、実際にはニット生地の画像をプリントした服のような見た目になってしまいます。
一方、3Dループ変換技術では、コンピュータ内に仮想的な編み機を用意し、ニットの編成プログラムを使って実際に編み地を作り、全てのループが3D空間内でどこに安定するかを計算することで、本物のニットと同等レベルの高精細なCG画像が自動で生成できる仕組みになっています。
こちらから詳しい説明や開発秘話をご覧いただけます。
「デザインデータから編み上がり生地を高精度に表現するニットシミュレーターの発明」開発秘話インタビュー
SHIMA SEIKI は、 公益社団法人発明協会による令和 6 年度全国発明表彰において、 「デザインデータから編み上がり生地を高精度に表現するニットシミュレーターの発明」 により、 「発明協会会長賞」 および 「発明実施功績賞」 を受賞しました。
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前述のように、3Dループ変換では1目1目のループ(編み目)を物理計算しており、隣接するループとの距離、歪み、コース方向(よこ方向)の曲げ、ウェール方向(たて方向)の曲げ、というニットにおける4つの構成要素を考慮したうえでレンダリングがおこなわれます。その結果、ニット特有の編み組織による生地のうねりなどが、リアルに再現されます。下図の左側は3Dループ変換の結果、右側はV-Rayの結果ですが、3Dループ変換結果では編み組織によって生じる引っ張りで波模様が表現されていることが確認できます。特に袖と身頃の裾部分では、編み組織でスカラップが形成されています。レイトレーシングの場合は型紙にテクスチャ(ファブリック)を貼り付けているだけのため、このような表現はおこなうことができません。
3Dループ変換にはスキャンした現物の糸のデータを使用することができるため、現物に忠実な糸の毛羽感が再現されます。V-Rayでもファーの設定で毛羽感を与えることはできますが、プリセットの毛羽をベースにパラメータを調節して設定をおこなうため、目視で現物に近づけるという作業になります。3Dループ変換の場合は、その製品に使用する糸をレンダリング前に設定しておくとその糸を使ってシミュレーションされるので、自動でリアルな毛羽感が表現されます。また、V-Rayの場合、モデル全体に同じ毛羽が設定されるため、ファーマップを使用して色領域ごとに毛羽のパラメータを調整する必要がありますが、3Dループ変換では色領域ごとに違う糸を設定することができるため、必要な部分にだけ自動で毛羽が表現されます。
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レンダリングは、3DCGにおいて重要な役割を果たしています。レイトレーシングや3Dループ変換といった技術を目的に応じて使いわけることで、細かい部分や質感をニーズに合わせて再現することができます。
レイトレーシングは、光の動きをシミュレーションすることで、よりフォトリアルな画像を作り出します。この技術を使うと、テクスチャや影の表現がさらにリアルになり、プレゼンテーションやプロモーションにおいて魅力的なビジュアルを提供できるようになります。一方で、3Dループ変換はニット製品などの繊細なディテールを正確に再現できるため、ニットの企画段階において細部や風合いを確認する際に大変役立ちます。
今後のファッション業界では、これらのレンダリング技術を理解して活用することが競争力を高める鍵となります。この機会にレイトレーシングや3Dループ変換の特徴を深く理解し、ご自身のプロジェクトやビジネスに取り入れてみてください。新しい技術がもたらす可能性を最大限に活かし、一緒に未来のファッションシーンを切り拓いていきましょう。