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グローバル市場で競争力を高めるアパレルブランドのDX戦略とは?海外事例から学ぶ成功の秘訣と未来への展望

作成者: wearware|2024/12/18 23:48:58

アパレル業界における日本国内のDX(デジタル・トランスフォーメーション)事例について、こちらの記事でご紹介しましたが、DX化が進む中、海外ではどのような戦略が展開されているのでしょうか? デジタル化を推進することで環境負荷を軽減し、よりサステナブルなモノづくりにシフトするのは国内外共通のトレンドでもあります。今回は海外事例を中心に、未来のアパレル産業の在り方について目を向けていきましょう。

 

デジタル化で事業を成長させた海外事例3選

コロナ禍をチャンスに変えたNIKEのデジタルマーケティング

コロナ禍における外出制限や在宅勤務の増加に伴い、運動不足やコロナ太りに悩まされる人が増えました。そこで注目を集めたのが、大手スポーツメーカーのNIKEが提供する「NTC(ナイキトレーニングクラブ)」というアプリです。レベル分けされたワークアウトから自分に合ったメニューを選択し、屋内で本格的なエクササイズが楽しめるというもので、もともと有料コンテンツだったのですが、コロナを機に無償提供したところ、登録者数が急増しました。それに伴いアプリやオンラインを介した直販売上も爆発的に増加。2021年には売上高が過去最高をマークし、その後も過去最高を更新しつづけています。

App Storeより(公式サイト:https://www.nike.com/jp/ntc-app

NIKEはこれまでも迅速なデジタル対応を進めてきました。Windows95が発売された翌1996年にはいち早く公式ウェブサイトを公開。1999年にはECサイトでの直販も開始しました。2016年以降は、新興テック企業の買収や提携を進め、アプリやソフトを使ったマーケティングに注力しています。NIKEはアプリ会員であるファンとの密接なコミュニケーションを武器に、デジタル接続された店舗体験を通じてNIKEのテクノロジーを駆使したプレミアムな世界観を提示し、ユーザーの共感を得ることに成功しています。

さらに、プロアスリートの卵であるスポーツ少年・少女とスポンサー契約を結ぶことで、アスリートの資本化にも挑戦しています。契約を結んだ少年少女の共通点は、彼らがSNSにおいて影響力を持つほどのフォロワーを抱えているという点です。もし彼らがスター選手となったとき、その影響力は計り知れません。これもNIKEのデジタル戦略なのです。

 

トレンドに素早く対応するZARAのデジタル戦略

スペインで設立されたアパレルブランドZARAは、トレンド重視のため2週間ごとに新しいデザインを店舗に並べており、年間で12,000点ものデザインの新製品を生み出しています。多品種少量生産で売れ行きによってフレキシブルに生産するのが特徴で、初回の生産は販売予定数の25%ほどしか生産せず、人気の商品は追加生産し、すぐさま店舗に並べるそうです。ZARAは徹底的なデータ分析と顧客の購買動向を活用した柔軟な生産体制により、トレンドを迅速に提供することに成功しました。

さらに、公式アプリによる顧客とのコミュニケーションを強化すべく、店舗ごとに商品位置を検索できる「CLICK FIND」や、試着室を予約する「CLICK & TRY」など、店舗でも使える機能の拡充を図りました。また、店頭業務オペレーションをデジタル化したことで、店頭から直接お客様に配送するサービスを実施し、商品のスムーズなお届けが可能になりました。

App Storeより(公式サイト:https://www.zara.com/jp/

ZARAはオンラインとオフラインが融合した顧客体験を実現するために、上記のようなデジタル投資を積極的におこなっています。今後、こういったOMO(Online Merges with Offline)型の新しいストア形態が増えていくと予想されています。

 

リアルタイムファッションという新常識を築き上げたSHEINのC2Mモデル

SHEIN公式サイト(https://m.shein.com/jp/?lang=jp)より

SHEINは中国発のファッションeコマースです。圧倒的な安さと豊富な品揃えでZ世代をターゲットに急成長し、ファストファッションの市場にインパクトを与えています。SHEINは企画から製品化までを最短3日でおこないます。SHEINは世界のファッショントレンドをリアルタイムでキャッチし、即座に数百人のデザイナーに共有します。デザイナーはそのアイデアをもとにデザインし、サプライヤーへ送ると、数量限定で生産・販売されます。このシステムを確立したことで、リードタイムを極限まで短縮する、「リアルタイムファッション」という新しいモデルを生み出しています。

SHEINが契約している300以上のサプライヤーのすべての工場は、一つのクラウドソフトウェアシステムで接続されており、C2M(Consumer to Manufacture)モデルを実現しています。これにより工場の稼働状況や在庫状況をリアルタイムで把握できることはもちろん、顧客の検索や購買パターンもモニタリングできます。消費者の行動分析がリアルタイムでおこなえるため、それをもとに生産数を管理することができます。

SHEINは、高度なAIアルゴリズムを構築し、需要予測の精度を高め、売れる仕組みを緻密に計算しています。ビッグデータに基づきPDCAを回し続けることで、徹底的なコスト削減を図っています。

 

DX化によりサステナブルなモノづくりを実現している海外事例3選

複雑なサプライチェーンをDXで透明化するPatagoniaのトレーサビリティへの挑戦

企業活動において“透明性”の開示が叫ばれるようになった昨今、ファッション業界では特に、生産から販売までのプロセスを追跡可能=トレーサブルにすることが重要視されています。しかしながら川上から川下までの複雑なサプライチェーンを、労働環境や環境への負荷を把握して透明化するのは非常に難しいのも現実。そんな中、果敢に挑戦し、社会的な責務を果たそうと奮闘しているのが、アメリカのアウトドアウェアブランドのPatagoniaです。

パタゴニア公式サイト(https://www.patagonia.jp/)より

Patagoniaは2007年にサプライチェーン情報を提供するサイト「フットプリント・クロニクル」をローンチし、ウェブサイトにすべての契約工場のリストを公開しました。サプライヤーの行動規範を設けて監査を実施したり、原材料の原産地情報を提出するよう求めたりと、すべての工程において厳密に追跡し、透明化を目指しています。

Patagoniaが掲げるミッションは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」です。Patagoniaにとってビジネスはあくまでも手段であり、環境保全に貢献することが目標となっているのです。DXとは本来、ITの導入によるデジタル化という狭義にとどまらず、デジタル技術を採用した根本的なビジネスモデルの変革を指します。Patagoniaが該当するSPOSocial Purpose Organization:社会目的を推進する団体)は、営利・非営利を問わず、今後ますます広がっていく必要があるでしょう。

 

サステナビリティ指標を可視化したReformationの持続可能なビジネスモデル

ECサイトの利用が盛んになった昨今、D2C(Direct to Consumer)という新たな形態のブランドが業績を伸ばしています。D2Cは店舗を持たず、自社のECサイトなどを中心に販売し店舗運営するコストを抑えることで、リーズナブルな価格で商品を提供できることが魅力的です。

アメリカの代表的なD2Cブランド「Reformation」は、同社の試着に特化した店舗を訪れると、環境に配慮した取り組みについて説明された木製のプレートが目に入ります。また、ホームページには、「The Sustainability Report」が掲載されており、製品情報の開示や、環境への影響度に応じて素材をランク付けし明示しています。CO2の排出量や水の使用量を公開することで、消費者からの信頼を得ているのです。また、製品の製造においてどの程度環境への影響があるか、アメリカで販売されている他の衣料品と比較した結果についても計算しています。

Reformation公式サイト(https://www.thereformation.com/sustainability/what-is-refscale.html)より

同社は毎年、サードパーティのコンサルタントと提携し、社内の評価ツールであるRefScaleの方法論を見直し、検証しています。その計算方法もすべて開示しており、モノづくりにおけるあらゆるコストを把握することで、持続可能なビジネスモデルを構築しているのです。

サステナブルファッションについて詳しく書かれた以下の記事もぜひご覧ください。

  
 

サステナブルファッションに取り組むオランダ発のLENA - The fashion library

サステナブルファッションというと、素材が環境に配慮されていることや、労働環境や従業員の人権に配慮されているというイメージが大きいかもしれません。ですが、実は衣服のレンタルもサステナブルファッションのひとつです。オランダのアムステルダムにある「LENA - The fashion library」は、図書館のように衣類を貸し出すレンタルショップです。店内にはカラフルな洋服が並び、商品によってレンタル料が異なります。気に入った商品は購入することも可能です。

LENA公式Instagram(https://www.instagram.com/lena_library/)より

衣服のレンタルは、資源の循環を目指すサーキュラーエコノミーの概念にも合致しています。商品をシェアすることで、必要な資源の量を減らすことができ、衣服の廃棄も少なく済むため、焼却処分する際に発生する二酸化炭素の排出量削減にも繋がります。

サーキュラーファッションについて詳しく解説された以下の記事もぜひご覧ください。

LENAのコレクションはオンラインプラットフォームでもレンタル・購入ができます。また、ユーザーの行動や好みを分析することで、よりパーソナライズされたサービスを提供しています。これにより、顧客満足度を向上させるとともに、在庫管理やマーケティング戦略にも役立てています。

 

海外市場で通用するアパレルブランドのDX戦略

AIを活用して顧客体験を向上させたasosのCRM戦略

asosは2000年にイギリスで創業し、セレブリティのスタイルを真似たファッションビジネスとしてスタートしました。名前の由来は「As Seen On Screen」で、テレビや映画で見られるファッションアイテムを販売していることを意味しています。

asos公式サイト(https://www.asos.com/)より

asosは、AIを活用し、顧客一人ひとりに合わせたユニークなショッピング体験を提供することで顧客満足度を高める、CRM(Customer Relationship Management)戦略を採用し、継続的な成長を実現してきました。顧客データに基づいて商品をレコメンドしたり、顧客セグメントに基づいたマーケティングをおこなったりすることで、より最適でパーソナライズされた情報を届けることができます。さらにSNSを積極的に活用して若年層とのコミュニケーションにも力を入れ、ブランドの認知度向上やファンの育成も強化しています。

asosは、テクノロジーを活用した顧客中心のアプローチを徹底的におこなうことで、オンラインファッション小売業界において地位を確立してきました。データ活用のお手本とも言える事例の一つです。

 

RFIDタグの導入で生産から販売までのフローを効率化したユニクロのデータ活用術

日本の大手ファストファッションブランドであるユニクロは2019年から、一つ一つの商品に付与した情報を非接触で読み取るRFIDを活用したセルフレジを導入しています。すべての商品にRFIDを埋め込むことで、商品を置くだけで一瞬で決済に進むことができます。RFIDの導入によって顧客の購買体験が進化しただけでなく、アナログな商品をデジタル化するという本質的な価値を付与することにも成功しました。

ユニクロ公式サイト(https://www.uniqlo.com/jp/ja/contents/feature/uniqlo-pay/store/)より

在庫状況をリアルタイムで共有できるため、サプライチェーン全体を連動させ、お客様がいつでもどこでも欲しい商品を購入できる個店経営が可能になったのです。物流における効率化や、ミスのない正確なオペレーションによるコスト削減にも繋がっています。また、検品作業や棚卸し作業の時間短縮にも成功し、販売機会ロスの撲滅や売上増加に繋がることも期待されています。

今後、ユニクロは素材の調達や管理といったサプライチェーンの上流における透明性を担保するトレーサビリティも強化していく方針を打ち出しています。さらにDX戦略にも近年多くの投資をおこなっており、日本発のグローバルカンパニーとして、フィジカルとデジタルの世界を繋げるソリューションを提供していくことで、幅広い業界で新しい価値を創造することを目指しています。

 

デジタル・トランスフォーメーションが導く次世代のモノづくり

ここまでさまざまな海外のDX事例を見てきました。アパレル・ファッション業界におけるDX化は、効率的なサプライチェーン管理から顧客体験の向上まで広範囲に渡って、多くの利点とビジネスチャンスを生み出しています。今後この流れはさらに加速し、単なるトレンドではなく、グローバル市場におけるモノづくりにおいて欠かせない要素となるでしょう。企業はテクノロジーとクリエイティビティを融合させることで、新たな価値創造へと繋げていくことがますます期待されています。

冒頭でもご紹介した、国内のアパレル業界のDX事例についてまとめた以下の記事もぜひご覧ください。