皆さん、こんにちは。ファッション・アパレル業界の未来を救うお役立ちサイトwearware(ウェアウェア)です。
きらびやかなファッションの世界。その裏側では、長年にわたり「大量生産・大量廃棄」という問題が指摘されてきました。しかし近年、在庫ロスや環境負荷への批判が高まり、「つくりすぎない」モノづくりへの転換が求められています。
そこで登場したのが、オンデマンド製造という、「必要なときに、必要な分だけ」をつくる生産スタイルです。この記事では、オンデマンド製造とは何か、具体的な事例や技術についても説明していきますので、ぜひ最後までご覧ください。
目次
- 大量廃棄時代に終止符を打つオンデマンド製造
・ファッション業界の現状と課題
・オンデマンド製造とは?
・なぜ今注目されているのか?
・オンデマンド製造の市場成長率 - オンデマンド製造の成功事例
・カスタムスニーカー - 自分だけのデザインを足元に
・Tシャツのオンデマンドプリント - 在庫ゼロでクリエイティブを形に
・ニットウェアのオンデマンド製造 - デザインもフィット感も思い通りに
・オンデマンドアクセサリー製造 - 3Dプリンティングで広がる可能性 - オンデマンド製造を支える5つの主要テクノロジー
・最新のニット製造技術:ホールガーメント®(WHOLEGARMENT®)
・試作のデジタル化:3Dバーチャルサンプリング
・自由なデザインと小ロット生産を実現:3Dプリンティング
・必要な分だけ即時生産:デジタルプリント(DTG)
・AIによる需要予測とスマート生産 - オンデマンド製造で実現するサステナブルな未来
・オンデマンド製造の本質的価値
・ホールガーメント®×バーチャルサンプリングの可能性
・今後の展望:AI×IoTでさらに進化へ
大量廃棄時代に終止符を打つオンデマンド製造
ファッション業界の現状と課題
世界では毎年、9,200万トンもの衣料が廃棄されていると言われています(出典:UNEP)。シーズン前に需要を予測して大量生産されるのが一般的ですが、トレンドの移り変わりは早く、予測が外れると大量の在庫を抱え、売れ残りによる大量廃棄が深刻な問題となっているのです。
一方で、消費者ニーズはますます細分化・多様化しており、季節やトレンドに応じた少量生産や個人の好みにカスタマイズされたアイテムへの関心が高まっています。そんな時代に、大量の在庫を抱えるリスクはビジネス上の大きなハードルになっています。
オンデマンド製造とは?
こうしたファッション業界が抱える課題への解決策として、今、「オンデマンド製造」という新しい生産方式が大きな注目を集めています。
オンデマンド製造は、注文を受けてから生産を始めるため、以下のようなメリットがあります。
●在庫リスクの軽減:作りすぎによる売れ残りを防止
●廃棄削減:不要な衣料品を生まない
●柔軟なカスタマイズ:顧客ごとに色・サイズ・デザインの調整が可能
●サプライチェーンの最適化:短納期での生産体制を構築可能
従来のマスプロダクションとは異なり、必要なモノだけを、必要なタイミングで届けるというアプローチは、環境にもビジネスにもやさしい選択肢として広がりを見せています。
なぜ今注目されているのか?
では、なぜ今、このオンデマンド製造がこれほどまでに注目されているのでしょうか?
その背景には、大きく二つの潮流があります。一つは、サステナビリティへの意識の高まりです。SDGs(持続可能な開発目標)に代表されるように、環境負荷を低減し、持続可能な社会を目指す動きは世界的に広がっています。ファッション業界は、大量廃棄を前提としたビジネスモデルからの脱却が急務となっており、オンデマンド製造は、そのための有力な解決策と考えられています。
もう一つは、デジタル技術の目覚ましい進化です。3Dデザインツールによるバーチャルサンプリング、AIを活用した正確な需要予測、そして製造工程の自動化などが、従来は難しかった「必要な分だけを生産する」を現実のものとしています。これらのテクノロジーが、オンデマンド製造の実現を力強く後押ししているのです。
オンデマンド製造の市場成長率
実際に、オンデマンド製造の市場は急速な成長を見せています。例えば、市場調査会社のQY Research Inc.によると、グローバルなオンデマンド製造市場は2024年時点で約60億ドルに達し、2031年には166億ドルを超えると予測されています(年平均成長率:CAGR 15.2%)。この数字からも、業界全体が「必要な分だけつくる」モノづくりへシフトしていることが読み取れます。このように、オンデマンド製造は、環境負荷の低減、コスト削減、そして多様化する消費者ニーズへの対応という、現代のファッション業界が直面する課題に応える可能性を秘めた、まさに時流に乗った生産方式と言えるでしょう。
次の章では、このオンデマンド製造をいち早く取り入れ、成功を収めている具体的な事例を見ていきましょう。
オンデマンド製造の成功事例
オンデマンド製造は、すでに多くのブランドやサービスで実用化され、大きな成果を上げています。ここでは、アイテム別に代表的な事例を紹介しながら、それぞれがどのように顧客体験を変え、環境配慮型のモノづくりを実現しているのかを見ていきます。
カスタムスニーカー - 自分だけのデザインを足元に
Nike By You
オンラインでスニーカーのパーツごとに色や素材をカスタマイズできるサービスです。ユーザーが自分だけのデザインをWeb上で仕上げると、その注文内容に応じてオリジナルスニーカーがNikeの工場で生産されます。
この仕組みは、余剰在庫を持たない生産体制を実現すると同時に、顧客参加型の製品開発という新しい価値を提供しています。製品を「選ぶ」だけでなく「創る」体験を通じて、ブランドへの愛着も育まれます。
Nike公式サイト(https://www.nike.com/jp/nike-by-you)より
Tシャツのオンデマンドプリント - 在庫ゼロでクリエイティブを形に
オリジナルデザインのTシャツを手軽に作成・販売できるサービスも、オンデマンド製造によって大きく成長した分野です。
Printful
ECサイトとの連携に優れたオンデマンド印刷&配送サービスです。デザインデータをアップロードするだけで、Tシャツやトートバッグ、マグカップなど多彩なアイテムを1点から製造・配送できます。販売者は在庫を持たずにビジネスをスタートできます。
Spring
クリエイターが自作デザインをアップロードし、受注生産形式で販売可能。YouTubeやInstagramなどSNSとの連携機能が豊富で、インフルエンサーを中心に人気を集めています。
どちらも「無在庫・少リスクで始められるファッションビジネス」という点で、D2C時代の象徴的なサービスといえるでしょう。
Spring公式サイト(https://www.spri.ng/)より
ニットウェアのオンデマンド製造 - デザインもフィット感も思い通りに
ニットの分野でも、オンデマンド製造は急速に普及し始めています。
Unmade
ニットや刺繍のカスタマイズができるテクノロジーを提供しています。ブランドはUnmadeのプラットフォーム「UnmadeOS」を活用し、顧客がオンラインで柄や色を選んだニット製品を1着から製造できます。ロンドンを拠点に、スポーツブランドや百貨店との協業事例も豊富です。
Haut Tricot
日本・岡山発のサステナブル・ニットウェアブランド。島精機製作所のホールガーメント®技術を活用し、1着丸ごと編み上がるニットを受注生産で提供しています。無駄な在庫や生地ロスを削減するとともに、素材にはリサイクル糸や天然繊維を採用し、サステナブル・ファッションを実現しています。
Haut Tricot公式サイト(https://hauttricot.com/)より
オンデマンドアクセサリー製造 - 3Dプリンティングで広がる可能性
アクセサリーのような小物も、オンデマンド製造によってパーソナライゼーションの可能性が広がっています。
Gemist
米国発のジュエリーテック企業で、ジュエリーブランドや小売業者向けに、オンラインでのカスタマイズ体験と写真のようにリアルな見た目の3D画像を提供するクラウドサービスです。従来のECサイトでは難しかった「試着感」や「組み合わせ確認」を、デジタル上で再現し、顧客エンゲージメントと購入率の向上を実現しています。このような技術はジュエリーのオンデマンド製造を支えています。
Stilnest
2013年にドイツ・ベルリンで設立されたジュエリーブランドで、3Dプリンティング技術とオンデマンド製造を活用し、持続可能なジュエリー製造を実現しています。
Stilnest公式サイト(https://en.stilnest.com/)より
これらの事例からわかるように、オンデマンド製造はスニーカーからTシャツ、ニット、アクセサリーに至るまで、ファッションのさまざまな分野で活用され、消費者には新たな選択肢と満足感を、企業には効率性とサステナビリティをもたらしています。
オンデマンド製造を支える5つの主要テクノロジー
オンデマンド製造を実現するためには、従来の大量生産とは異なる革新的なテクノロジーが必要です。近年、デジタル技術の進化によって、ファッション業界ではより効率的でサステナブルな生産方法が可能になっています。本章では、オンデマンド製造を支える主要な技術について紹介します。
最新のニット製造技術:ホールガーメント®(WHOLEGARMENT®)
ホールガーメント®は島精機製作所が開発した、縫い目がなく一着丸ごと立体的に編み上げるニット製造技術であり、従来の「生地を裁断して縫い合わせる」工程を不要にします。
●1着丸ごと編み上げることで、縫製工程・生地ロスを大幅削減
●1点からでも製造可能なため、受注生産やカスタマイズに最適
●着心地・フィット感が良く、デザイン自由度も高いため、高付加価値アイテムに適する
従来の製法で作られるニットと比べて、オンデマンド製造との親和性が高く、欧州や日本国内ブランドでの導入が進んでいます。
ホールガーメント®についてはこちらをご覧ください。
試作のデジタル化:3Dバーチャルサンプリング
従来の現物サンプル制作はコストと時間がかかり、多くの廃棄物も発生していました。これを解決するのが、3Dデザインツールによるバーチャルサンプリングです。バーチャルサンプルをECサイトなどで活用することで、需要予測の精度を高め、売れるものを生産することが可能となります。
●デザインの試行錯誤をデジタルで完結
●顧客への提案・社内確認も画面上で実施可能
●サンプル廃棄の削減に直結
主要ツールにはAPEXFiz®、CLO 3D、Browzwearなどがあり、リアルな布のドレープ感やフィット感も高い精度で再現可能です。D2CブランドやOEM現場でも導入が進んでいます。オンデマンド製造において、生産前に現物に近い状態でデザインを確認できることは大変重要であり、欠かせない技術と言えるでしょう。
3DデザインソフトAPEXFiz®について、詳しくはこちらをご覧ください。

さまざまなアイテムの企画デザインからバーチャルサンプリング、生産への連結、EC の活用までも。APEXFiz®〈エイペックス・フィズ〉は、いつでもどこでも幅広く役立つデザインソフトです。
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関連リンク
自由なデザインと小ロット生産を実現:3Dプリンティング
3Dプリンティング技術は、現在あらゆる方面で活用されていますが、ファッションにおいてもアクセサリーや靴、さまざまな衣装パーツに活用され、デザインと製造の自由度を大きく広げています。
●デジタルデータから直接立体物を出力
●金型不要、材料の無駄が少ない
●複雑な造形や1点モノに最適
代表的な技術には、Stratasys(PolyJet)、Carbon(DLS)、HP Multi Jet Fusion(MJF)などがあり、NikeやStilnestなどでの導入例があります。
必要な分だけ即時生産:デジタルプリント(DTG)
Direct to Garment(DTG)は、インクジェット方式で布に直接プリントする技術です。シルクスクリーンに比べて小ロット対応力が高く、パーソナライズTシャツやグッズ製造において中核を担っています。
●無在庫・短納期・多品種に対応
●注文が入ってから1枚単位で生産可能
代表機器にはKornit Digital、Brother GTX Pro、OmniPrint FreeJetなどがあり、Printfulのようなオンデマンド生産サービスを支えるインフラとして広く普及しています。
AIによる需要予測とスマート生産
ファッション業界の大量廃棄を根本的に減らすには、「どれだけ作るか」を正確に判断することが重要です。ここで力を発揮するのが、AIによる需要予測とスマート生産です。
AIは、販売履歴、SNSでの反応、天候、地域のイベントなど多様なデータをリアルタイムで学習・解析し、商品の需要変動を予測します。また、顧客一人ひとりの好みや過去の購入傾向をもとにしたパーソナライズ提案も可能です。
オンデマンド生産においては、こうしたAIの活用によって、
●注文前の段階でトレンドや需要を高精度に予測
●「売れる分だけ作る」生産計画を立てる
●製造と販売をリアルタイムで連動させる
といった柔軟で無駄のない運用が可能になります。結果として、過剰在庫のリスクを最小化しつつ、消費者のニーズにきめ細かく応える製品提供が実現されます。
代表的な技術には、Amazon Forecast、Vue.ai、Stitch FixのAI分析などがあり、D2Cブランドやマスカスタマイゼーションを導入する企業が実際に活用を進めています。
オンデマンド製造で実現するサステナブルな未来
オンデマンド製造は、単なる生産方式の変化にとどまりません。サステナビリティ、デジタル技術、そして消費者参加型のモノづくりという、ファッションの未来を形づくる3つの要素をつなぐ、革新的な仕組みとして注目されています。
オンデマンド製造の本質的価値
この生産方式の本質的な価値は、まず第一に、需要に応じた柔軟な生産体制を構築できる点にあります。これにより、過剰在庫や不要な廃棄が抑えられ、環境への負荷を大幅に軽減できます。さらに、顧客ごとの好みに応じたパーソナライズ製品の提供が可能となり、消費者満足度の向上にもつながります。こうしたムダを省いた効率的なモノづくりは、企業にとっても収益性の向上など、ビジネス面でも多くのメリットをもたらします。
ホールガーメント®×バーチャルサンプリングの可能性
特にニット分野では、ホールガーメント®技術による1着単位の製造と、デザイン段階での3Dバーチャルサンプリングによる無駄の削減の組み合わせが、オンデマンド時代のもモノづくりを支える中核技術として広がりを見せています。
このようなホールガーメント®とバーチャルサンプルを活用したサステナブルな取り組みについては、以下のリンクでも詳しく紹介しています。
サステナブルなモノづくりについてもっと知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

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今後の展望:AI×IoTでさらに進化へ
今後の展望としては、オンデマンド製造をさらに進化させるテクノロジーの融合が鍵を握ります。たとえば、AIによる高度な需要予測は、消費者の行動やトレンドをリアルタイムで解析し、「どれだけ、いつ作るべきか」という判断をより正確にします。また、IoT技術の導入によって製造ラインの状態を常時モニタリング・自動制御することで、生産の最適化が進み、人的リソースやエネルギーの無駄も削減されていくでしょう。さらに、ブロックチェーンを活用したサプライチェーンのトレーサビリティ強化も進めば、原料調達から出荷までのすべてのプロセスが透明化され、より倫理的かつ信頼性の高い製品供給が実現できます。
「必要なときに、必要な分だけ」をつくる。この合理的で持続可能な考え方が、やがてファッション産業の標準となる日は、そう遠くないかもしれません。
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次回の更新もお楽しみに!