近年、ファッション・アパレル業界でも3D技術が進化してきましたが、布帛に続いて、ニット製品の3D化に注力するブランドが増えています。この動きに合わせて、つい先日アパレル3DソフトウェアのCLOにニットのデザイン機能が搭載されたというニュースがありました。同時期に、ニットバーチャルサンプリングのパイオニアである島精機製作所のAPEXFiz®では、CLOやBrowzwear、Style3Dとのデータ連携を強化した新機能が追加され、注目を集めています。
さらに、KM.ON社やLogica社からもニットの編み地シミュレーションが可能なソフトウェアが登場し、ニット業界において3D技術が盛り上がりを見せ始めています。
この記事では、ニットの3Dバーチャルサンプリングに対応している各種ソフトウェアの機能性や表現クオリティなどを比較しながら、それぞれのソフトウェアの特徴や使い方、メリット・デメリットなどを紹介していきます。ニット製品のデザインや開発における革新的な手法を取り入れるために、自分に合ったソフトウェアを選ぶ際の参考にしてください!
目次
冒頭でもご紹介した通り、CLOは"Realistic Knitwear Designer"というニットをデザインするための新機能を、2024年4月にリリースしたバージョン2024.0に搭載しました。
CLO | 3D Fashion Design Software (clo3d.com)より
この機能を使うことによって、CLOでフィッティングした製品パターンの上に、ニットのテクスチャを追加することができるようになりました。ニットの要素であるゲージ、組織、糸の情報をそれぞれ設定することで、それに合わせたニットのテクスチャが生成されるという仕組みです。
現段階では、1つのパターンにつき1種類の組織を適用するだけの簡易的な仕様で、使用できる組織の種類は天竺、リブ、ガーター、カノコなど、ベーシックなものに限定されており、ジャカードやインターシャのデザイン作成も未対応のようです。
ニットの風合いを表現するための糸はプリセットの中から選び、そこから太さや撚糸などの設定をおこなえる仕様となっています。
ケーブル柄をはじめとするニットならではの組織柄や複数柄の組み合わせ、ファンシーヤーン使いなど、デザイン性の高いものは作成できませんが、操作としては大変シンプルで初見でも感覚的に使うことができるのが良い点です。デザイン性は特に重視せずに、「とりあえずオリジナルのニットテクスチャを使った3Dを作成したい!」という方にはおすすめの機能であるといえます。
操作の注意点としては、布帛のテクスチャを使う場合とは違い、ニットのテクスチャを適用させるとデータが大変重くなり、動作がスローダウンするという点です。デザイン作業をおこなう間は簡易プレビューのモードに切り替えることが公式のチュートリアルでもおすすめされています。
また、生成されたテクスチャの使用はCLOの中に限定されているため、テクスチャをエクスポートしてほかのソフトにインポートし、高精細な動画を制作するなどの作業はおこなえないため、その点も注意が必要です。
さらに、この機能は主にビジュアルを作成することを目的として開発されているため、デザインイメージの方針決定には使えますが、編み機に使用する生産データの出力には対応していません。別途生産データを作り直す必要があり、デザインイメージ通りのものがすぐに作れるわけではないということも理解して使用する必要があります。
次に紹介するのは、島精機製作所が開発・販売するソフトウェアAPEXFiz®です。同社は創業の1962年より横編機の開発・製造・販売をおこなっているニット業界におけるリーディングカンパニーで、長年培ったノウハウがAPEXFiz®に凝縮されています。
APEXFiz®はニットの3Dバーチャルサンプリングに必要な機能が揃ったソフトウェアということで、以前よりニットデザイナーのあいだで確固たる地位を築いていましたが、最近のバージョン更新によって、CLO、Browzwear、 Style3Dなど他社の3Dソフトとの親和性が格段にアップしています。
従来よりAPEXFiz®にはパターン作成とフィッティングの機能が搭載されていますが、2024年3月にリリースされたバージョンV-05Aでは、CLOやBrowzwear、Style3Dなどのソフトウェアで作成した3Dデータ(フィッティング後のデータ)をそのままインポートし、その上にニットのデザインを直接おこなえる機能が新たに追加されました。
操作は簡単で、CLOなどで作成した3DデータをFBX形式で書き出したものを、APEXFiz®で読み込んだ後、パターン部分をクリックして抽出し、取り出したパターンに対してデザインをおこなうという流れです。
豊富なライブラリからニット柄を選び、複数の柄を組み合わせながらデザインすることができるため、CLOとは段違いにクリエイティブな操作が可能となっているのが特徴です。また、誰でも無料で使えるデジタルコンテンツWEBサービスSHIMA Datamall™から柄をダウンロードし、ライブラリに新たな柄を追加できるところもポイントです。CLOでは対応されていないジャカード柄やインターシャ柄の作成も、APEXFiz®は可能なため、デザインの幅も広がります。
なお、APEXFiz®の画面構成として、左側で平面のパターンに対してデザイン作成作業をおこない、右側で3Dにてリアルタイムに柄位置を確認できるという仕様になっています。CLOのように動作がスローダウンする問題も基本的には発生せず、製品となったイメージを見ながら快適に作業ができます。
Virtual Sample by SHIMA SEIKI(@apexfiz_official) • Instagram写真と動画より
APEXFiz®で作成したバーチャルサンプルは、業界でも最高水準のクオリティをほこります。その秘訣は「糸」にあります。糸は、現物の糸をスキャンしたものを使用するため、毛羽感などもリアルに表現され、まるで本物の編み地のような超高品位のテクスチャに仕上がります。実在する糸のデータを用いることによって、より正確なバーチャルサンプリングをおこなうことができるのがポイントです。さらに、同じく島精機製作所が運営するyarnbank®から世界中の糸サプライヤーより提供された糸データをダウンロードし、バーチャルサンプルの作成に使用することも可能となっています。
yarnbank®については、下記の記事でも紹介しています。
今すぐ糸情報総合WEBサービスyarnbank®に登録すべき4つの理由
糸のオンライン検索の専門サイトがあることをご存知でしたか? 2020年9月にサービスが開始したyarnbank®(ヤーンバンク)は、ファッション・アパレル業界の商品企画、資材調達に関わる方の御用達になること間違いなしの、超お役立ちデジタルプラットフォームです。
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レンダリングには、APEXFiz®独自の技術である「3Dループ変換」を使うことによって、ニットの編み目ひとつひとつを忠実に表現し最高品質のイメージ画像を作成できます。また、APEXFiz®に搭載されている「V-Rayレンダリング」を使うことも可能です。それに加えて、テクスチャをgltf/glb形式でエクスポートする機能も新たに対応されました。エクスポートしたテクスチャをCLOやBrowzwear、Style3Dにインポートし、3Dデータに適用させてレンダリングがおこなえるため、各3Dソフトでお好みのライティング設定を利用する際や、キャットウォークのモーションを付けたい場合などに大変便利です。そのほかにも、3ds MAXやDaz 3Dなど、よりプロフェッショナルなレンダリングやアニメーションを作成するソフトにテクスチャをインポートすることもできるため、3Dの可能性が広がります。
また、テクスチャ以外に、編み機用の生産データをエクスポートできることもAPEXFiz®の強みの一つです。前述のように、CLOのニットデザイン機能はビジュアルイメージを作るためのものであるのに対し、APEXFiz®ではビジュアルを作成した後に生産に繋げることができ、エンド・ツー・エンドのDPC(Digital Product Creation: デジタルによる製品作成)を実現するソフトであるといえます。
生産との連動については、下記の記事で詳細をご確認いただけます。
生産とのシームレスな連携で、デザインの企画からサンプル作成までの効率UP!―バーチャルサンプリング後のデータ受け渡しについて―
シリーズ全6回でお送りするファッション業界のデジタル化を促進するためのソリューション、第2回目の今回は、SDS®-ONE APEXシリーズを用いて、製品企画者が生産者にデザインを伝えるときに役立つ、仕様書を作る工程を見ていきましょう。企画と生産との連携をスムーズにおこなうには、従来のアナログ媒体でのやり取りではなく、いかにデジタルを駆使するかがポイントです。
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以上、APEXFiz®の新機能により、ほかのソフトとのデータ連携が強化され、3Dデータの取り扱いがより容易になることがお分かりいただけたのではないでしょうか。
従来のAPEXFiz®の機能の詳細については、下記の記事でご覧ください。
ニットウェア3Dバーチャルサンプリングの目玉機能を一挙公開!―3Dモデリングとニットデザインの便利な専用ツールすべてを紹介―
一般に、服作りにかかる期間は1年と言われています。特に、サンプル作成はやり直しが多いため、時間やコストが膨らみがち。このリードタイムを短縮するために、業界ではバーチャルサンプルの活用が広まっています。バーチャルサンプルを使えば、実際のサンプルを作らずとも企画検討できるので、資源の無駄も削減できます。
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ここまではCLOとAPEXFiz®のニットデザイン機能について紹介してきましたが、冒頭でもお伝えしたように、近年ニットの3Dバーチャリングサンプルをおこなうためのソフトウェアがほかにもリリースされ始めています。
Create Designはドイツの編み機メーカーであるStoll社の機械向けにKM.ON社が開発したものです。APEXFiz®の後発のソフトウェアであり、ライブラリからさまざまな柄を組み合わせてデザインできる機能などは似ていますが、3D機能は搭載されていません。Create Designを使ってニットの3Dイメージを作成するには、次のような手順になります。
1.CLOやBrowzwear、Style3Dで着せつけているパターンをDXF形式で読み込む。
2.平面状態のパターンの上に柄を配置し、テクスチャを作成する。
3.テクスチャをエクスポートして、CLOやBrowzwear、Style3Dにて合成とレンダリングをおこなう。
CREATE Product Workflow (youtube.com)より
この手順では、テクスチャをエクスポートした後に3Dに合成して初めて、柄の位置や配色のバランスが確認できるため、もしデザインに満足いかない結果となれば、再度手順2に戻って編集作業をおこなう必要があります。APEXFiz®のように平面パターンと3Dが2画面で同時に表示されない分、作業効率は下がってしまうと考えられます。
PaintKnitはイタリアのLogica社が開発し、2023年に発表されたソフトウェアです。KM.ONのCreate Designよりもさらに後発のソフトウェアであり、ライブラリからさまざまな柄を組み合わせてデザインできる機能が搭載されている点など、APEXFiz®とCreate Designに似たつくりとなっています。
このソフトの最も優れている点は、作成した編み地を360度回転させて確認できるところで、編み地の細部まで見ることができます。
Logica PaintKnit (youtube.com)より
また、編み地を作成したあと、SelfTryOnという機能を使うことで、3Dで製品になったイメージを確認することも可能です。ただし、KM.ONのCreate Designと同様、デザイン作成時には平面の編み地の状態でデザインをおこなうため、製品の形で柄の配置などをリアルタイムで確認することはできず、不便さが残ります。
ほかのソフトからパターンをインポートしたりする機能は搭載されていないようで、四角のベースをもとに、選んだネックラインやアームホールに合わせてシルエットが変形するという仕様になっているため、作成できる製品スタイルは限定されていると考えられます。インターフェースも技術者向けでデザイナーには少し難しそうな印象もあります。
現状は、島精機製作所のAPEXFiz®に軍配が上がると言えます。前述の通り、APEXFiz®では以前よりニットの3Dバーチャルサンプリングに必要な機能がすべてカバーされ、単独のワークフローが完成されていましたが、新たにほかのソフトとの連携機能が追加されたことによって、より3D業界でフレキシブルに対応できるソフトウェアへと進化しています。SHIMA Datamall™やyarnbank®などのアセットを提供するプラットフォームもあわせて用意されているため、ユーザーはクリエイティブに新しいデザインを生み出すことが可能というのも、APEXFiz®を使用することの大きなメリットです。
また、今回の記事では詳しい紹介を割愛していますが、編み組織による縮みを考慮したフィッティング実行機能や、フィッティングスピードの向上など、3D機能の強化が進められているため、今後も引き続きニット業界でのNo. 1のソフトウェアとして成長していくことが期待できます。
現在すでに世界中のニットデザイナーやサプライヤーにおいてAPEXFiz®が使用されているので、同じソフトを使うことでデータのやり取りなどがスムーズになる点もAPEXFiz®を使うことの利点ともいえます。
ちなみに、APEXFiz®はニット以外にも、織物や刺繍、タオル、プリントなどのさまざまな種類の素材を作成する機能もある、守備範囲の広いソフトウェアになっています。ニットとほかの素材を組み合わせてデザインしたり、ニット製品ではない別ジャンルのアイテムを企画したい場合にも使用することができるので、APEXFiz®を持っておくだけでものづくりの過程でオールマイティーに活用することができます。
さまざまな種類の素材作成機能については、こちらの記事にて詳細をご確認いただけます。
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近年、さまざまなソフトウェアが登場するなか、どれを使えば良いか選ぶのが難しくなってきており、実際におこないたい作業にマッチするソフトウェアを選ぶためには、それぞれの特徴を理解することが重要です。
判断に迷った場合は、下記のリンクからご相談いただければ、適切なソフトウェアをご提案させていただくことも可能ですので、お気軽にお問い合わせください。